「それは……ないよ……」
私はポツリと呟いた。
呪文のように“好きじゃない”と何回も心の中で唱えていた。
あんな優しさの欠片もない冷酷な男。
氷のように冷たい男なんて……。
「桜子ちゃん?どうして自分の気持ちに嘘をつくの?」
「えっ?」
私は多恵ちゃんの方を見た。
「自分の気持ちに正直になったらどうかな?」
「私は、いつだって正直だよ?」
私がそう言うと、多恵ちゃんは静かに首を左右に振る。
「桜子ちゃんは、自分の本当の気持ちを隠して一海様のことを好きじゃないって……そう自分に言い聞かせてるだけなんだよ……」
私が?
一海さんへの気持ちを隠してる?
そう思うと、胸がチクチク痛んだ。
そして、なぜか目から涙がポタポタこぼれ落ちていった。



