「ここは亡くなられた奥様のお部屋だったの」
多恵ちゃんが窓を開けながら言った。
開けられた窓からは爽やかな春風が入ってくる。
「えっ?」
一海さんのお母さんの部屋?
「あっ!安心して?病気になられてからは、このお部屋はお使いになってなかったから」
多恵ちゃんが微笑む。
「あ、うん……」
私はアハハと笑った。
一海さんのお母さんの部屋を私が使ってもいいの?
大切な思い出が詰まったこの部屋を。
そんなことを思いながら窓の外に目を向けた。
「あっ!桜が見える」
私は窓のところに行った。
この窓の高さくらいある大きな桜の木。
「来週には満開になりそうだね」
隣に来た多恵ちゃんがそう言った。



