桜の木の下で…―運命に導かれて―





「俺が、お前に夜這いするとでも?」



一海さんが私をチラッと見る。



「よ、夜這い!?」


「お前のことなんが襲おうなんて思ってないから安心しろ。女には不自由してないんでな」



一海さんがバカにしたようにそう言ったあと、クスッと笑った。


な、何よ、その余裕の笑みは……。



「わ、私だってね、男には不自由してないっつーの!あんたに襲われるくらなら犬に襲われた方がマシよ!」



私がそう言うと、一海さんがゆっくり立ち上がる。


そして私に近付いてくる。


な、何よ……。


私はズルズルと後ろに下がる。


体は壁につき、これ以上後ろに下がることは出来ない。


一海さんが私の前に立ち、壁に片方の手をつく。


こ、これが噂の壁ドンってやつ?


もう片方の手が私の顔に伸びてきた。


殴られる!


そう思った私は目をギュッと閉じた。


けど、一海さんは私のアゴに指を添えてクイッと上にあげる。


目をゆっくり開くと、一海さんが私を見ていて、見つめられてドキドキしてる私がいる。


何で、こんな男に見つめられてドキドキしてんのよ。



「負け犬の遠吠えだな」



また一海さんがクスッと笑う。


私は何も言えず、ただ一海さんを見てるだけだった。



「俺の言うことは絶対だ。口答えは許さん。いいな」



一海さんの落ち着いた低い声が耳に届く。


一海さんはそう言うと、私から離れた。