「…………多恵、ちゃん」
年配の女性を見た私は多恵ちゃんの名前を口に出した。
多恵ちゃんがいる……。
多恵ちゃんだ。
大きく見開いた私の目からポタポタと涙が零れ落ちていく。
「……条?……一条?」
ボーとしていた私の肩を揺らす先生。
それに気付く私。
「先生、多恵ちゃんが……」
私は目の前にいる彼女に目を向けたまま、先生の服の袖を持ってそう言った。
「一条、この人は多恵ちゃんじゃない」
「えっ?」
私は先生を見た。
だって多恵ちゃんじゃん。
多恵ちゃんがいるじゃん。
「この人は、俺の母親だ」
先生は私を落ち着かせるようにそう言った。



