「それから……」
先生はピアノのとこまで行く。
そして何かを持って、私がいる机のとこまで戻って来た。
「これを渡して欲しいとも頼まれた」
そう言って先生は1冊の本と古びた香水の瓶を机に置いた。
この本……。
一海さんが桜の木の下で読んでた本だ。
えんじ色のハードカバーの本。
それにこの香水の瓶は……。
「先生、これ……」
「じいちゃんのお兄さんが持ってた本だって。
それを何でばあちゃんが持ってたのかは知らないけど、ばあちゃんから一条桜子に会えたら渡してくれって頼まれたから……。
その香水の瓶は、ばあちゃんが大切に持ってた物で……私の宝物だって、いつも言ってた。
この香水の瓶も一条桜子に会えたら渡して欲しいって頼まれたんだ……」
中身が全くなくなり色褪せた香水の瓶を撫でる。
あの時の多恵ちゃんと過ごした日々が頭に蘇る。
そして私は本を手に取って、表紙を優しく撫でた。
「ねぇ、先生?」
「ん?」
「一海さんは?」
「20歳の若さで戦死したらしい……。沖縄の海に散ってしまった……」
先生は窓の外を見ながら寂しそうにそう言った。



