「ねぇ!」
前を歩く彼に向かって呼びかけた。
「何だ」
彼は立ち止まり振り向く。
相変わらず無表情の彼。
「あなた、名前は?」
彼の名前を聞いてなかったことに気付いた。
「俺の名前を知らないなんて珍しいな」
いやいや、知らないから聞いたんですが……。
「西園寺一海」
サイオンジ、イチカ?
「ねぇ?イチカの漢字は?」
「漢数字の“いち”に“うみ”と書いて一海だ」
「ふーん。カッコイイ名前だね。ねぇ、一海さんって呼んでいい?」
私はそう言って、彼にニッコリ微笑んだ。
「好きにしろ」
一海さんはそう言って、私に背を向けた。
そして私は、小走りに一海さんの側へ行くと、後ろじゃなく一海さんの隣に並んだ。