それから一海さんのお父さんに挨拶をするため、和室に行った。
襖を開けると、いつもの場所に一海さんのお父さんが座っていた。
「桜子さん……」
私の顔を見て、寂しそうに私の名前を呟く一海さんのお父さん。
「あ、あの……お世話に、なりました……」
私は一海さんのお父さんの前に行き、正座するとそう言って頭を下げた。
「すまなかった……」
一海さんのお父さんも頭を下げる。
「謝らないで下さい」
いつかは、ここを出て行かなければいけない日はやって来る。
それは私がこの時代の人間ではないから。
その出て行かなければいけない日が今日だったってだけ。
それだけ……。
一海さんのお父さんは何も悪くない。
悪いのは、美乃さんに喧嘩を売った私。
「桜子さんと、沢山いろんな話がしたかったよ……」
「私も、です……」
その時、一海さんのお父さんの目に光るものが見えた。
泣いてるの?
泣かないで……。
私まで悲しくなっちゃうから。
「今日まで、ありがとう、ございました……」
私は再び頭を下げた。
「元気でな」
「はい」
私は一海さんのお父さんに笑顔を見せた。
そして、その場から立ち上がり、振り向くことなく襖を開け、和室を出て行った。



