「でも、一海には美乃さんという許婚がいて……。西園寺家は昔から二階堂家に世話になってる。だから美乃さんが生まれた時、一海の許婚にと言われた時も断れなかった……。なぁ、桜子さん?」


「はい……」


「今回のことは桜子さん、あんたは悪くない。でも、美乃さんに言われれば……」



こちらを向いた一海さんのお父さんは、悲しそうな顔をしていた。


やっぱり美乃さんが一海さんのお父さんに私がしたこと言ったんだ。


一海さんのお父さんは私が悪くないと言ってくれた。


でも西園寺家は二階堂家に世話になってるから頭が上がらない存在。


二階堂の令嬢に私をクビにしろと言われたら、いくら美乃さんは嫁の立場としても断ることが出来なかったんだ。



「桜子さんに、もう少し早く出会っていればな……」



一海さんのお父さんが再び庭の方を見ると、寂しそうにそう呟いた。



「わかりました。明日、出て行きます」


「すまない……」


「いいえ。では失礼します」



一海さんのお父さんはこっちを見ようとしなかった。