まだ何か男の子が話してるけど、聞こえない。


無声映画を観てるみたいに唇がせわしなく動くのを、私はただ、見ていた。



* * *



俺は勢い良く扉を開き吠えた。


『高原あっ! 』


無駄にでかい身体がびくつき、媚びを張り付かせた笑顔が向けられた。


吐き気がする。


『かっ、勘違いするなよ?
ただ俺は…』


『…失せろ、今すぐ』


『あ、ああ』


奴に鋭利な刃物を突き立てられたらどんなに良いだろう。


『高原、この女に今後手を出したら…』


『わ、分かった』


『霧』


虚ろな瞳。身体は微動だにしない。


知って、しまったのか。


『聞いてくれ…頼む』


肩に手を置くと、霧の悲痛な声が辺りに響いた。