「怖かったろ?」


何が? あっけらかんと返すと、一度も見たことのない怒ったような、心配してくれているような、その中間で至は私の頭を引き寄せた。
おでこと鼻先にぶつかった胸板は想像していたよりも硬くて、男なんだなと呑気に思っていたのだ……最初は。
すぐに冷静な思考なんてどっか行っちゃって、体温が上昇するのを押し返しながら感じた。

さっきから至がおかしい!
断じて私じゃない! 私じゃ……


「沙久は泣かなすぎ。強がりすぎ。…落ち着きなさすぎ」

「強がってないもん。……最後のは認めるけど」

「怖がっていいんだぞ。沙久は悪くないんだし」

「だ、から……」

「沙久」


今日に限ってどうして男前なの?
本当は怖かったよ。でももっと怖いこと知っているからこんなの屁でもないって笑い飛ばせる自信はあったのに。
優しく囁かれたら、泣いちゃうじゃん。

流れかけた涙はすぐに引っこんだ。
泣き方は忘れたんだ。
涙は取っておくんだ。

何度も言い聞かせた言葉を反芻する。


「……泣かないよ。でも、ありがとう」

「…………頑固だな」

「そーですよー」

「…桂子達も探してるから戻るぞ」

「それを早く言ってよ! こんなとこで至とちちくり合ってるんじゃなかった…!」


「ちちっ…」至の戸惑いの声が聞こえたけど無視。
桂子が待っているなら早く戻ればよかった。尋常じゃないくらい心配してるよ。…そして激怒されるよ。