「ホテルの前まで送ろう」

 言って、向こうを向いたベリルにミカはか細い声で引き留めた。

「待って。まってよ……」

 まだ震えているミカに、ベリルは近づいて落ち着かせるように優しく抱きしめた。

「……」

 定期的に響く音に、ミカはホゥ……と落ち着いた溜息を漏らした。

ベリルはそんなミカに顔を近づける。

「やだっ」

 ミカは彼のキスを拒絶した。そして、震えた声で発した。

「キスで誤魔化さないでよ。いつまでもキスだけじゃ……嫌だよ」

「私にはそれしか与えられない」

 言われた言葉に、愕然とする。

「どう……して?」
「知っていて聞くのか」

 そうだ。知ってて聞いてる。それでも、違う言葉が出てきやしないかと期待する私に、彼は無神経な言葉を吐き捨てる。

 違う……無神経なんかじゃない。期待させる方が無神経なんだ。

「私はお前に何も残せない」

 美しいエメラルドの瞳が、少し潤んだように見えた。