家から飛び出した。なにもかも振り切りたくて。
信じてくれていなかった先生を忘れたかった。

何故、自分じゃなくてあの人を信じるのだろうか?
一緒にいる時間は、誰よりも自分じゃなかったの?

海の近くまで来ると腕を掴まれた。

「待てよ!」

溝川だった。なんで追いかけてくる?
要まで…

「手!出血多量で、はぁ…はぁ…」

手…忘れてた。見てみると、まだ血は流れていた。
今になって、ずきずきとしてきた。

「手出して」

仕方なく手を差し出した。手にハンカチを巻かれた。不格好だけれど、血をなんとか止めることが出来た。

「ありがとうございます…」

こういう優しいとこもあるんだ。
ちょっとだけ見直した。

「はぁ…どんだけ速いの」

「…知りません」

ただ、あの場所にいたくなかった。
だから、何も考えずに走った。

「お母さんっ…」

美依が抱き着いてきた。美依って体育苦手じゃ…?

息切れの皆。
…また迷惑かけてしまった。

「…皆、ごめ…」

「謝んなよ」

要が自分の頭を叩いた。けど、痛くなかった。優しく叩いたんだ。

「海が近いから、見てから帰ろう」

溝川が提案した。
海…か。久しぶりに見るな。
美依は自分の右手を握って、要は自分の左手を握った。

溝川は、後ろから頭を撫でてくる。
ちょっ…歩きずらい。
けど…まぁ、いいか。こんな日があっても。

「要兄、顔真っ赤だよ」

「俺は、いつでも顔真っ赤だし」

「嘘つき!」