勇樹は神風特攻隊として名誉ある戦死を遂げた。勇樹が戦死した十日後、秋に報せが渡った。

「戦……死」

その言葉を聞くと、秋は玄関先で腰を抜かした様に座り込んだ。

勇樹の戦死。その報せは秋に絶望を与えたのである。

「何、言って……いるんですか? あの人は、私に約束してくれたんですよ……必ず、生きて帰るって」

そう言って秋は、勇樹の戦死を報せに来た男の裾を掴み、叫びを上げる。

「残念ですが、貴女の婚約者である勇樹さんは、神風特攻隊として名誉ある戦死を遂げました。もう二度と、この家に戻る事はありません」

男は裾を掴んでいる秋の手を、ゆっくりと優しく振りほどく。

「失礼します」

そう言い、男は急ぎ足で木造アパートから離れて行った。

「…………」

少しだけ沈黙の時間が続くが、やがて、悲しみと絶望に縛られた秋の心は寂しい雨を降らした。
それはやがて、涙と呼ばれる物へと変わる。

「あ……ああっ」

心の雨が目から二、三摘、床に零れると、秋は両手で顔を覆った。そして、蝉の鳴き声を掻き消す程の泣き声を上げる。
秋の悲しみの涙が、洪水となって一気に床を濡らした。