そう言い、上官は勇樹の左肩を軽く二、三回叩いて、勇樹に背を見せてその場から去っていく。

去り行く上官の背中を見送ると、何をする訳でもなく、勇樹はただ無為に時間を過ごしていった。

出撃十分前には既に戦闘機の座席で待機。
時計の針が作戦時刻を指すと、平山中継基地からプロペラ回転の轟音と共に零戦が出撃する。

時計の針は午後二時半を指す。

「特攻隊より平山中継基地へ。予定通り、1430にて目標空域到達。これより各自のタイミングで特攻を開始します」

「平山中継基地より特攻隊へ。特攻隊全員に名誉ある栄光の橋が架からん事を祈る」

その言葉と同時に通信が切れると、勇樹は目を閉じ様々な記憶を振り返る。

「(秋、僕の特攻の事を知れば君は悲しむだろう。でも、泣かないで欲しい。僕はアメリカ軍の空母を壊す矛になる。そう、神風に成るんだ。僕はいつも君の傍で君の髪を撫でよう、風となって……)」

秋に届く様に勇樹は心の中でそう紡ぐと、覚悟を決めた目を大きく見開いた。
そして各隊員に通信を繋げ、吐喊の叫びを上げる。

「特攻隊長より全機へ。これより、特攻を開始する。私に続けぇぇぇっ!!」