軍の上官から神風特攻を命じられて、勇樹の心は悲しみでいっぱいだった。
そして、秋との約束を守る事が出来ず、罪悪感もが勇樹の心を覆って行く。

勇樹は、心を覆って行く罪悪感を意識しない様に、自分の命を預ける零戦の整備をがむしゃらに行う。

神風特攻の命を受けてから二日後の朝、勇樹に出撃命令が下った。

「檜田三等兵、君に出撃命令が下った。また、山ノ目中佐の意向により、君を戦時特例による三階級特進で本日付けで曹長とする。」

「了解です! 出撃命令及び昇級の旨、確かに受理いたしました。」

勇樹は敬礼をして声を上げる。

「檜田曹長、出撃は本日の1400。1430に目標空域到達。以後は各自の判断で特攻を開始だ。」

軍の上官がそう言うと、勇樹は「了解です」と再び声を上げる。

「檜田曹長、出撃までは自由行動が許されている。奥さんに会って来たらどうだ」

「お言葉、有り難うございます。ですが今、妻に会ってしまえば、決意が揺らいでしまいます。ですから、妻には会いません」

勇樹のその言葉を聞き上官は少し口ごもるが、直ぐさま勇樹に慰めの言葉を掛ける。

「そうか……。無理はするなよ」