「軍に知り合いが居てね、その人はかなり高い階級の偉人らしいんだ。だからその人の立場上、どうしても僕が徴兵令に参加しなきゃ行けないんだ」

そう言って、勇樹は秋を落ち着かせると、生暖かい畳みの上へと座らせた。そして、言葉を続ける。

「大丈夫。僕はちゃんと生きて帰って来るから、秋を一人になんかしないから。だから、待ってて欲しい、秋とお腹の中の赤ちゃんの二人で」

秋にその言葉を言うと、勇樹は素早く立ち上がり、近くに置いてあった大きめのバックを手に取って勢い良くアパートの玄関を出た。

秋への愛しさを振り払いながら。秋への愛しさを振り払わなければ、軍には行けなくなってしまいそうだから。

秋は一人、木造アパートの畳みの上で声を押し殺しながら泣いた。