『運転したいの、お願い』 いつにない夏実の強い口調に裕太は戸惑っていたが、しばらくして微笑んだ。 『分かった。頼むよ』 夏実は頷き、運転席に乗り込んだ。 車の中ではずっと二人とも無言だった。 しばらくして、 『夏実、道が違うよ』 裕太が言ったが、夏実は答えなかった。 裕太もそのまま何も言わなかった。 『―海か』 裕太が呟いた。 海が見えてきた。 もう空はすっかり暗くなっていて、海は黒く静かだった。