自分に都合の良い様に記憶をすり替えていた。

仁志はずっと、その思い違いに付き合ってくれて、婚約者のフリを続けてくれている。

「―仁志」

「―ん?」

「ありがとう」

「―どうしたんだ。変だぞ」

仁志は背中を向けて、ベッドに入ってくれた。

「こっち向いてくれないの?」

「マジで勘弁してくれ。今、かなりヤバいから」

「―ごめんね」

仁志は夏実の手を握ってくれた。

ありがとう、仁志。

本当に、ありがとう。




―裕は、どこにいるのだろう?

私の、子供は?

息が、苦しい。

心臓の音がバクバク鳴っている。

闇の中に隠れているこの記憶を、蘇らせなくてはならない。

一番、大切な人の記憶なのだから。