「ジャンケンホイ、あっち向いてホイ。」
どこかビルの屋上――。
二人は夕日を眺め、見詰め合う。
「勝った。」
秀はそう言って、美咲の頬に指を当てる。
「罰ゲーム……。」
秀は笑ってそう言うのだった。
「ジャンケンホイ……」
美咲が不意にそういうのだから思わず負けてしまった。
その後少し沈黙が続いた。
二人は見詰め合ったままだ。
美咲の顔は夕日に照らされてか、紅かった。
少しずつ空は赤くなってゆく。
「ねぇ……
好きって言って……」
また沈黙続くのだろうか。
「えっ……」
「罰ゲーム……」
美咲の顔はほのかに紅さをました。
秀の口は開くことが無かった。
長い時間が過ぎてゆく。
二人だけの世界が広がり続けている。
二人は見つめ続けている。
秀はうしろからそっと美咲を抱きしめる。
二人の心臓は重なって、心音は共鳴するように速さを増す。
心臓の音が速くなればなるほど、言葉が頭の中で踊り狂う。
『すき』って言葉が好きにはならない。
好きって言葉引き出されない。
見つからない。隙、数寄、鋤、どれも『すき』だけど
好きじゃない。
空にはいつしか太陽は消え、暗くなり始めている。
「ねぇ、言って……」
何を言えば良いのか分からなかった。
見つからなかった。
好きっていうことが出来なかった。
好きって言葉が見つかった時には、二人に間があった。
もう心臓は重なりもしてない。
もう心音は共鳴しない。
「そろそろ帰るね。」
美咲の顔はどこか悲しげだった。
何で言えないのだろう。
明日には言えるかな?
そんな思いが秀の中でグルグルと廻り続ける。
「ゴメン、美咲――。好きだけど、好きって言えない。
言うのが怖くて――。でも好きです。」
心の中でそう呟いた。
「好きだ!!!」
今度は心の中じゃない。
少し叫んでみた。
明日なら言えるかな?
「ジャンケン、ホイ……」
また心の中で呟いた。
暫く秀は月に語った。