雪は未だ降り続いていて、いつもの汚れた都会は雪の下に全て覆い尽くされ、別世界のような清浄な空気が漲っていた。 行き交う車も人も見えず、店内にはゆうこと私だけで、世界にたった二人取り残されてしまったような気がした。
 
 ゆうこは語り終えた。 
 私は、暫く何も言えなかった。 感動とも、共感とも、悲しみとも、説明出来ない感情が私を捉えていた。  私達がアイドルや男の子やファッションに夢中になっている時期、ゆうこは人生のもっと真摯(しんし)なもの、過酷(かこく)なものに苦しんでいたのだった、 大きな現実と云うものにがんじがらめにされてのたうち回っていた。 私達があれこれ悩みながらも、結局は陽光降り注ぐ草原で青春の日々を生きていたとするなら、ゆうこは踏み外せば死の深淵(しんえん)に転がり落ちるような稜線(りょうせん)を、霙(みぞれ)混じりの身を切るような烈風に飛ばされまいと、唇を噛み必死で岩を掴みながら歩いていたのだった。 
 何をどう話せば良いのか、わからなかった。 私とはあまりにも懸け離れた人生を、ゆうこは生きていた。 ゆうこの抱えている苦悩や孤独や悲しみに対して、私は無力だった。   

 「聞いてくれて、ありがとう」 
 ゆうこが小さく言った。
 「ううん、でも約束して、もう二度と死ぬなんて考えないって」
 私はそう言うのが精一杯だった。 ゆうこは小さい声で、ウンと言うと、
 「私って、どっかおかしいよね」 
 と明るく言った。 
 
 私は混乱していた。 優子がおかしいのか、社会がおかしいのか、判らなかった。 正しい間違いの問題ではないのかも知れなかった。
 今は、レストランでウエイトレスのアルバイトをしていると言った。 そして中学を卒業したら、安いアパートを借りて一人で住んで働くんだとも言った。 
 もう十一時近かった。  
 「リカに聞いて貰って、すごく楽になった」
 ゆうこは笑顔でそう言った。
 「ごめんね、私余り何も話せなくて」
 「ううん、聞いて貰えるだけで嬉しかった。 私の話ばかりでごめんね」
 何も言えないけれど、ゆうことこのまま朝までいたいと思った。