私がゆうこに初めて会ったのは、中学二年の冬の、木枯らしが舞う寒い日だった。 昼休み、風邪気味で食欲の無かった私は、食べかけたお弁当をカバンに戻すと教室を出た。 
「リカ、どうしたの? 食べないの?」 何人かの友達が、お弁当を頬ばりながらそう聞いた。
 「ウン、ちょっと風邪で食欲ないから。 図書室で本読んでる」
 そう言って私は教室を後にし、図書室に通じる渡り廊下へ出た。 吹き抜けの渡り廊下は風の通り道になっていて、風は思ったより冷たく身を切るようだった。 あまりの寒さに怖(お)じ気づいて戻ろうとした時、校庭の片隅のベンチに座っている人影が目に入った。 

普通教室や職員室のある棟からは死角になっているベンチで、よく何人かの生徒が先生の目を逃れて煙草を吸う場所だった。 寒風の中、その人影はじっと俯いたまま本を読んでいるようだった。 髪の毛とスカートの裾(すそ)が風に靡(なび)いて、女生徒だとわかった。 私は何故か惹(ひ)かれるように、寒風吹きすさぶ校庭をその人影に近づいていった。  
 今度入学して来た転校生のようだった。 彼女は近づいた私に気付くと、読んでいた本から目を上げて戸惑ったようにはにかんだ。 
 「早いのね、食べるの」 
 私がそう言うと、
 「食欲ないから」
 と彼女は目を伏せた。
 「そう、私も。 なんだか風邪みたい」
 「ウン、風邪流行ってるからね」 
 彼女は、膝の上の文庫本を丸めながら言った。
 「寒いから、中で読んだ方がいいんじゃない」
 余計なことかなと思いながら、私がそう言うと、
 「ありがと、でもいいの、ここで」 
 と彼女は私を見上げながら眩(まぶ)しそうな顔をした。 
 「私もこれから図書室で本を読もうと思ってたの、一緒に行こうよ。 風邪引いちゃうよ」