帝の命令は、絶対である。
けれど私は、どうしても顔を上げる事が出来ずに居た。
すると、ふいに頤(おとがい)に指が触れて、帝の御顔が覗き込んできた。
私は驚いて、目を見張った。
そして、彼と初めて目が合う。
優しい、優しい光を湛えた瞳だった。
「ああ…やはり貴女は私が思っていた通りの人だ」
ほっとした様に口元から息が漏れ、微笑んだ目が細まる。
まるで、絵の様にお美しい。やはり、女房達が言っていた事は、本当なのだわ。
「桐壺更衣。貴女は私からの文は全部受け取ってくれたかな」
私は訳が分からず、目を泳がせた。
何故。
帝から頂いた御文は、今日が初めてである。

