桐壷~源氏物語~



いよいよ、帝の御座所である、清涼殿へとやって来た。

寝所らしき広い部屋へと通され、床に座ると、女房達は私を置いて、出て行ってしまった。

待って。私を置いていかないで。

私はそう叫びそうになりながら、ひたすら俯いていた。


やがて、ゆっくりと此方へと歩いて来る、人の気配がした。

私は平伏する。

ああ、いっその事、ここで気を失う事が出来たら、どんなに良いか。

その方は、私の目の前へとやってくると、床へ座った。


「突然の事で、驚かせてしまったね」


凛とした、男らしい低い声が室内に響く。

私は緊張の余り、声が出ず、ひたすら平伏していた。


「そんなに緊張することなどないから安心しなさい」


私は益々、身体を固くする。

帝は口元に柔らかな笑みを浮かべて、こう言った。



「面を上げよ。貴女の顔を見てみたい」