桐壷~源氏物語~



「何様だと思っているのかしら」

「他の女御や更衣を差し置いて…」

「御覧になって。すましかえっているわ」


こちらまで聞こえる様に、女房達が口々に悪口を立てる。

桐壺は、清涼殿から遠くに位置する。

その為、幾つもの渡殿(わたどの)を通らなければならないのだった。

何故、この様に、聞こえる様に私の悪口を口にするのかしら。

ただでさえこれから起こる帝との対面に、逃げ出してしまいたい気持ちでいるのに、追い打ちをかける様な、他の女官達の嫉妬の眼差し、あからさまな悪意。



苦しい。

極度の緊張で、心臓がどきどきと大きく脈を打っている。

ああ、逃げ出してしまいたい。

一歩一歩を歩いていくのが、やっとの事の様に思える。