桐壷~源氏物語~




どうにかして本日のお勤めが終わり、桐壺へと戻ると、局の中は大騒ぎになっていた。

何か、あったのだろうか。


私の顔を見るなり、年嵩の女房が声をあげた。


「ひ、姫様。恐れ多くも今上(きんじょう)の御使いがいらっしゃいまして」


私は、女房が、一体何を言っているのか、一瞬分からなかった。

今上――それは、帝の事である。

何故帝の様な、雲の上の世界に住んでいらっしゃる御方が、私などの所に?


赤紫の躑躅(つつじ)に結びつけられた文が、女房の掌の上で小刻みに震えている。


緊張の余り、かたかたと震えて上手く言う事をきかない指先で、私は文を開いていった。