「最近、妙にうきうきとなさっていらっしゃいますわね。帝にはお珍しい事です。何処かで、お気に入りの女官でもお見つけになられましたか」
部屋に着いて早々に、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)は、こんな言葉を口にした。
彼女は前向きで明るい性格ではあったが、気が強く、大変嫉妬深い所があるのだった。
充分過ぎる程棘を含んだその科白を聞いて、帝は思わず目を見開く。
女性の勘とは、げに恐ろしいものである。
「到着して早々に、一体何を言い出すのか」
帝が否定の言葉を口にしないのも、癪に障った。
長年連れ添ってきたからこそ分かる事なのだが、彼は真面目さ故に、その思い入れが深ければ深い程、嘘をつけない所があった。
弘徽殿女御は、不満を隠せない。
いや、隠さないと言うべきだろうか。
男皇子を産んだ女御、という誇りや自尊心、そして帝への独占欲から、ここまで強気な態度が出てくるのだろう。

