桐壷~源氏物語~



「最近、妙にうきうきとなさっていらっしゃいますわね。帝にはお珍しい事です。何処かで、お気に入りの女官でもお見つけになられましたか」


部屋に着いて早々に、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)は、こんな言葉を口にした。

彼女は前向きで明るい性格ではあったが、気が強く、大変嫉妬深い所があるのだった。


充分過ぎる程棘を含んだその科白を聞いて、帝は思わず目を見開く。

女性の勘とは、げに恐ろしいものである。


「到着して早々に、一体何を言い出すのか」


帝が否定の言葉を口にしないのも、癪に障った。

長年連れ添ってきたからこそ分かる事なのだが、彼は真面目さ故に、その思い入れが深ければ深い程、嘘をつけない所があった。


弘徽殿女御は、不満を隠せない。

いや、隠さないと言うべきだろうか。


男皇子を産んだ女御、という誇りや自尊心、そして帝への独占欲から、ここまで強気な態度が出てくるのだろう。