「今回の楽譜は、ちょっと難しいわよ」

 楽譜を手渡すと、少年はパラパラとめくり始めた。

「……」

 無言でしばらくそれを眺める。数分後、読み終わった楽譜をアリシアに返して、ピアノに向かった。

「!」

 無表情で弾かれる音色に、アリシアは驚く。また覚えた……

 大人でも、簡単には弾けない難易度の高いものをベリルは完璧に、最後まで弾きこなした。

 まだ9歳なのに……

 少年は弾き終わると、目を閉じて小さく溜息を吐き出し、静かに目を開いた。

「心が、無いのでしょう?」
「!」

 言われて、アリシアはビクンと体を強ばらせた。

「……え?」

 少年は彼女に向き直り、苦笑いを浮かべる。

「演奏は出来ても心は無い。これでは、ピアノをただ弾いているだけ」
「……」

 この子、全て理解してるんだわ……