それから、佐助が再び常篤の元に現れたのは、数日後であった。
「常篤様・・・常篤様・・・・」
いつものように川原で思案にふけっていた常篤を呼ぶ声があった。
「おお、佐助か?」
「はい。」
「お人払いを…」
「私ひとりだ。」
「いえ、そこに1人…」
「そこ…とは?」
「あの木陰に紗枝殿がいらっしゃいます。もしかして、今まで本当にお気づきにならなかったのですか?」
「…恥ずかしながら。」
常篤は今まで何度となくここにいた自分を紗枝に見られていたと知って、一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「常篤様ほどの達人でも、無害な女の気配には気付かぬのですな。」
「…はい…」
気恥ずかしそうに常篤が言う。
なんとも素直な少年のような笑みである。
「とにかく、お人払いを。」
うながされて、常篤は、つかつかと紗枝のほうに歩き出した。
突然自分のほうに向かってくる常篤に狼狽して、紗枝は思わず走りさって逃げようとした。
「紗枝殿!」
呼び止められて、覗き見をして、見付かれぱ逃げるなどとという、子どものような行動をとっていた自分にはずかしくなった紗枝は思わずその場に平伏した。