「ここ数日・・・殿の領内に仁左衛門常篤なる小村の庄屋が頻繁に出入りし、領内の政についてあれこれと見聞しております。いかがいたしましょうか。」
「捨て置け。」
「よろしいので」
「かまわぬ。どうせ何もできぬじゃろう。」
「しかし・・・少し調べましたところ・・・『三桜』の一桜、『白桜』を継ぎし者であるとの噂にございます。」
「なに?あの『三桜』がまだ残り伝わっておったか。まあ、そんな錆付いた伝説に何もできはしまい。あれからもう三百年近くたつのじゃ。せいぜい貧乏武家の剣の手習いほどのものじゃろう。」
「それでは・・・せめて私が常におそばに」
「無用じゃ。その程度の者に斬られるような運命であれば、ワシもそれまでの男だったということじゃからの。」

そういうと、諏訪は荒々しく横に控えていた紗枝の胸元に手を差し込んだ。
「あ・・・」
紗枝が抗うまでもなく、紗枝は荒々しく掻き抱かれたのである。

それが、自らの罪へのいらだちなのか、明日をも知れぬわが身への覚悟なのか、紗枝にはわからなかった。ただ、この日だけは諏訪に抱かれていて、紗枝は泣きべそをかいたわが子を抱いているような妙な錯覚にとらわれた。