次郎はしばらく考え込んでいたが、
「わかりましてございます。本日は家老様のご高説をたまわり、この福田屋、何十年分を一夜で学んだようなこころもちでございます。」
簡単に礼をのべて退出した。

諏訪はまだ何かいい足りなさそうであった。
「この政の裏にはの。農地や石高の割りに増えすぎたわが藩の口減らしの意味もあるのじゃ。確かにこれから、古今まれに見る多数の犠牲者がでよう。しかし、それによって、藩内の物流と石高と民の数を整えることこそ、この政の『要』・・・。さらに遊女として売り飛ばし、子どもをした働きに出した金も手に入って1石二鳥じゃ。」
そうひとりでつぶやいて、
「いずれにしろ、ワシは地獄行きじゃの。」
とさびしそうに鼻で笑った。
「さて。地獄にはおなごはおらぬじゃろうからの。そちをいまのうちに存分に抱いておくか。」
諏訪が、まだ隣で自分に酌をしている紗枝の肩に手をかけた。
そのときである。
「殿・・・殿・・・」
屋根裏から女の声がする。
「なんじゃ。」
諏訪がその声に答える。