そんな地獄絵図のような年の夏も終わろうかという時期。
福田次郎は諏訪の屋敷に姿を見せていた。
「例の策はいかがですか?」
次郎が諏訪に酒をつぐ。
「うむ。思った以上に難航してはおるが・・・来年の春までにはある程度の形にはなるであろうな。」
「しかし・・・多くの犠牲がでましたなあ。あのため池工事のときなど・・・一瞬で数十人が水に飲まれました。」
「ふん。そのような小さな犠牲は最初からわかっておったことじゃ。気にするな。」
「なるほど。さすがに諏訪様は大器でいらっしゃる。」
「よいか、福田屋。これからの時代はの。おそらく幕府が倒れ、おそれおおくも身分低きものどもが政を行うようになろう。」
「これはまた恐ろしいことを・・・」
次郎は思わず声をひそめた。

悪名高き諏訪といえども、やはりこれだけの権力を握る男。一筋縄ではいかない『何か』を持っているのである。