月に数度の『お城勤め』の帰り、時に紗枝の目に入る光景があった。
それは、川原で無心に刀を振るう侍、つまりは常篤の姿であった。

もちろん、向こうはこちらに気づいていまいが。
その刀は、月の光を反射して、時折まぶしいほどの光を放つ。この刀はおよそ男の体ほどの長さがあり、慣れない者であれば、抜くだけでも自分の身を斬ってしまうほどの長剣である。その長剣をいとも簡単に彼は振りぬく。

その刀がふり下ろされると、その光がまるで霧散して、光の雨が降るかのように紗枝に瞳には写ったのである。さらに常篤の放った刀の先にある川の水面は、その剣圧で美しい弧の模様を描く。

紗枝は目を細めてその刀の舞いを見つめる。幻想的で流れるように美しいその様に魅入られて、彼女はしばし時を忘れた。
(あの方がもし私の再縁の相手であれば・・・)
ただ、紗枝はいまさら考えてもせん無きこと、と思いつつもそう思ってしまうのである。

いまやその美しい光景は、ほぼ福田屋に軟禁され、男どもに蹂躙される紗枝にとっては、京の祭りの花火や灯篭流しのように美しい、そして幻想的な唯一心の安らぐ光景そのものだったのである。