日々窮して、常に飢餓の危機にある農民たちにとって、それは天国のような世界であったかも知れないし、もし立場が変わることができるのであれば、変わりたいと望む女は数限りなくいたであろう。しかし、紗枝にとっては、それは地獄であった。
死することができるのならば、そのほうがいいと思うほどの生活であった。

朝から晩まで家事に追われ、福田屋の番頭から丁稚にいたるまでの食事などもすべて任された。紗枝をかばって手伝おうとする丁稚などは、厳しい折檻を受け、場合によっては国に返されたりもした。

いつしか紗枝に同情を寄せる丁稚もいなくなり、福田屋の中で紗枝は孤立し、まるで汚いものを避けるかのように周囲は紗枝との接触を恐れた。

毎晩の陵辱で自分の身を汚らわしいと感じている紗枝にとって、そんな周囲の態度は、さらに自らを追い込み蔑む原因となった。

紗枝は日々ますます自分が無気力化し、ただ、体を動かし、息をしているだけの『でく』に思えてきたのである。