季節は流れ、松代は収穫の秋の季節となった。気候のよい年であらば、藩内の村全体が祭りで揺れ、年に一度の盛り上がりを見せる。

しかし、毎年続く凶作で、ここ数年はその祭りもすっかりと質素なものになってしまった。
神社の神官が村の田を回って・・・祈る。それだけのいかにも儀礼的で形式的な、祭りと呼ぶにはあまりに貧相なものでしかなくなっていたのである。

十数年前の風に揺れる美しい稲穂があふれる田園風景を常篤は思い出していた。

秋を感じさせる涼しい風が吹くと、田の稲穂がサラサラと音をたてて、地上に美しいさざ波を描く。時には、水面に石を落としたときにできる波紋のような動きを見せることもあり、それは美しいものであった。
生命を育むその稲穂は、自然と人間の叡知が生んだ美しい自然のキャンバスのように人の心をやさしく癒し、美しい模様を描き出すのである。