話は藩の財政改革に戻る。

先だっての改革で藩の財政と権力を握った家老諏訪頼重は、追い討ちをかけるべく藩内のあらゆる階級・場所から、さらなる搾取を行った。もちろんこのような政に反対する藩士たちも多くあったが、それも力づくで抑え込まれた。

まず、諏訪は各藩士の知行に応じて、それぞれに数十両から数百両の追加上納を命じた。

これには様々な反対論が出たが、藩内で最高に課せられた追加上納で諏訪と同じ家老職の真田家の1000両があった。これはこの時代においては、藩主の親戚と言えども莫大な財であった。しかし、これに対して、諏訪は自ら先に8000両を追加上納してみせたのである。

これをみせられては、反対のしようがない。諏訪よりはるかに石高の多い真田が、その十分の1も納められないとなっては、まさに『恥』であった。
真田家を始めとして、多くの藩士に思い上納義務が課せられたのであるが、これを諏訪に申し立てて拒もうものなら、
「少し、民を甘えさせているのではあるまいか?ワシをみなされ。与えられた石高以上の上納をしておろう?」
といわれたら、誰もが黙ってうつむくしかないのである。