その日も河原で物思いにふけっていた常篤であったのだが、
(もうこのような刻か…。)
考えにふけるうちに辺りはすっかり夜になっていた。常篤が帰ろうと立ち上がったとき、
上流の方から水を叩く音が聞こえた。
(・・・このような刻限に誰が?)
常篤はその音の正体を確かめようと、その音をたどって河原を歩く。
(もしや誰かが川で自害などをしようとしているのでは?)
常篤の足があせりで速まる。
そして、ようやく見つけたその音の正体は、驚くことに水面に裸で立ち上がり、夜空を見上げる美しい女の裸体であった。
突然の光景に、一瞬常篤の時が止まった。

「はっ?」
その女が振り向く。
その女の動きに合わせて、川の水面が美しい波紋を作り、川面に写る月とともに、幻想的な光景を作り出した。川面にただよううっすらとした靄(もや)が月の光を乱反射して、女の身体をピンクに染める。

「あっ!」
女が常篤に気付いてあわてて、胸を隠す。
「失礼いたした!」
自分でも驚くような大声で常篤が答え、後ろを向く。