紗江といったその女性は、数え歳二十一歳。
後家と呼ぶには、あまりに若い彼女は、そのときすでに夫を亡くしていた。

夫を亡くして以来ずっと喪に服してきた。彼女には一生をつつましく暮らすには十分な夫の財産があり、彼女はそこで夫の死を悼みつつその生涯を終えるという選択もあったのである。

しかし、夫の四十九日を終えると、夫の親族にすべての財産を譲り、紗江は何一つ求めず、何も欲することなく帰ってきた。

夫の親族や周囲は驚き、そして、彼女を引き止めた。その清廉で欲のない人柄を夫の親族は惜しんだ。

しかし、彼女はついにその首を縦にふることはなかった。
いかなる説得にあっても彼女は、
「私ごときにはもったいない財と地位です。これは、皆様でお使いくださいませ。私は郷里に帰り、親孝行をしながら余生を生きたいと思います。」
と繰り返すだけであった。