このような状況で心が拒否していても、身体は反応し、男性を迎え入れる。女という生き物の悲しい性がそこにはあった。言葉では抵抗しつつも、紗枝のその部分は濡れて男をさらに興奮させてしまう。古くから女は人間としてのプライドを守る前に、母体を守る構造を重視するようにできているのだ。紗枝ははからずもそのことをこんな場所で思い知ることになったのである。

『こと』が終わったあと、紗枝は再び別の部屋に通された。そこでは、福田屋の親族一同と紗枝の父母がいて、食事と酒で饗されていた。
両親は、いま『紗枝と次郎が初対面で話しをしている』と聞かされていたらしい。
「紗枝、次郎殿はどうでしたか?」
母が聞く。
(どうでしたも、こうでしたもない・・・)
と紗枝は思ったのだが、母に余計な心配をかけたくなかったこともあって、
「はい。良き男のかただと。」
と答えた。
「そうですか・・・あまりに遅かったので心配していたのです。」
そう聞いて紗枝は思わず着物の襟や裾を確認した。
(大丈夫・・・母上にも気付かれないはず。)
「紗枝・・・少し顔が赤いぞ。何か熱でもあるのではないか?」
父が紗枝の異変に少し気付いたようにして聞く。
「いえ・・・初めてこのような屋敷をみましたゆえ、少し興奮しているのかもしれませぬ。」
紗枝は目を合わせずに言った。

それからひと時の間、いつのまにか帰ってきた次郎とともに挨拶もすませ、婚儀の日を定めた上で帰ることになった。