そんな折に、また常篤の元に一件の縁談が舞い込んだ。常篤の興味を引いたのは、分家ながら武田信玄公の血を引く娘らしいことと、すでに後家であるということである。

まだ初婚であった常篤の元に後家の再縁の縁談があることは珍しいことであった。

縁談を持ってきた産婆が懸命にその後家の器量の良さと家柄、その人柄などを語る。
しかし、常篤には先ほども言ったような思いがあったこともあり、当然その話も丁重に断ったつもりであった。

しかし、不思議なことにこの産婆は常篤の
「まことにありがたいお話なれど、今はまだ領内の政で頭がいっぱいゆえ・・・」
という言葉をどう解釈したのか
「(そのようないいお話ならそのつもりはあるが)時期を待たれよ。」
と解釈して、相手と縁談を進めてしまったのである。

その後家こそ・・・紗枝であった。