常篤の一族には、先祖代々伝わる家宝があった。
これと同じくして一子相伝の秘術も伝えられ、これを代々大切に語り継ぎ、守り抜いてきたのである。

宝刀『白桜』。
その刀身はまさにその名のごとく白く美しく磨き上げられ、どのような細工をほどこされたのか、光を帯びると淡いピンクの光を放つとされている。『放つとされている』、というのは常篤自身、まだ一度も見たことがないからである。

しかし。
(とうとう、その時が来たのかもしれぬ・・・)
常篤はその宝刀が安置されているといわれる場所を見つめて考え込んでいたが、思い切ったように、その場所にある嵌め扉を外した。そこには、美しい装飾をあしらった袋が横たわっており、その隣には武田家の紋章が入った漆塗りの箱が添えられていた。
常篤はその袋をまず手にとり、慎重に中にある刀を取り出した。
「これが・・・白桜!」
これまで様々な刀を見てきた常篤も、その存在感に圧倒された。
黒塗りの美しい造りの鞘から取り出されたその刀身は、ここに安置されたときより二百余年が経過しようというのに、ますます輝きを増しているといった感じであった。