一方、常篤の亡骸を見てその場に放心状態で崩れ落ちた紗枝と秀五であるが、彼らは輿についてきた事情を知る藩士たちによって、屋敷内に運び込まれていた。
「紗枝殿・・・紗枝殿?」
常篤に扮した佐助が声をかけるものの、返事がない。
目は開いているものの、その目は虚空をみつめ、動かないのである。
「常篤様・・・」
ちいさな声で口に出したように聞こえたが、それも定かではない。
佐助は仕方なく、今度は秀五に声をかけた。
「秀五!これ秀五!」
佐助が秀五の両頬を平手打ちする。
「あ・・・常篤さまぁ・・・」
「ワシは常篤様ではない。佐助じゃ。」
「そうですかぁ・・・でもご無事でよかったです。常篤様ぁ。」
秀五もいまだに心ここにあらず、といったところである。
「よいか、秀五。」
強く秀五の肩をつかんで佐助が言う。
「常篤様は、まだ死んではおらぬ。そなたが白桜を継げば、その刀の中に常篤様の魂は宿る。お主がお主の力で常篤様を生かすのだ。」
「常篤様を生かす?」
秀五の目に徐々にしっかりしたものが宿ってくる。