「紗枝ネエちゃん!」
そんな紗枝のところに、あわてて秀五が走り寄ってきた。
「どうしたの?こんな時間に・・・」
「早馬が!城に早馬が向かっていったんだ!村の人がさっき屋敷に知らせに来てくれたんだ。」
「早馬が・・・」
紗枝の目に希望が宿る。
「では・・・もしかして、江戸のお殿様の書状をもって?」
「うん!きっとそうに違いないって言ってた。」
今日までに常篤が処刑されたという話は聞いていない。それであれば、この早馬が江戸からのものであれば、きっと常篤は許されるであろう。もちろん、生涯隠棲を余儀なくされるであろうが、それでも常篤が生きていたなら、紗枝はそれで十分であった。
「よかった!」
今度は紗枝の涙が喜びの涙に変わる。
「お姉ちゃん、良かったね!」
秀五が知ってか知らずか、紗枝の背中をさすってなぐさめる。
「ねえ、お姉ちゃん、それなら明日、常篤様は屋敷に帰るよね?おいらと佐助さんは屋敷で待つから、お姉ちゃんも待とうよ!」
「そう・・・ですね。」
紗枝は一番の笑顔を見せた。
これが紗枝が人生で見せた一番美しい笑顔であった。
紗枝と秀五は、手をつないで常篤の屋敷へと向かった。