その夜。
ひそかに諏訪派の家臣がひと所に集められた。
そこに死に装束の常篤が入ってくる。家臣たちは黙ってこれを見守っていた。
「この常篤、腹を切るにあたって、ひとつだけ願いがございます。」
常篤の声が響く。
「なんじゃ?」
諏訪義正が皆を代表して聞き返す。
「私が腹を切った後、私の屋敷に再び『高村仁左衛門常篤』を名乗る者が現れます。彼は訳合って私に仕える者にございます。」
「しかし、そなたを名乗っても姿形が違えばすぐに近隣の民にはバレるであろう?」
誰かが横から口を挟んでくる。
「彼は、躁身術の名人でございます。顔はもちろんのこと、声や立ち振る舞いまで、私にうりふたつになりましょう。」
「なるほど。で、そなたの願いとは?」
「この高村仁左衛門と、この屋敷にいるものには、今後決して危害を加えなさらぬよう。それだけでございます。