「よい。私はやはり佐助に話していたとおり、腹を切る。そして、お主は明日より高村仁左衛門常篤に変装し、もう一人の常篤として生きるのだ。」
「やはり・・・そうなされるので?」
「それしか残された道はあるまい。」
そういうと常篤は何かを覚悟したように目を閉じた。
「それならば・・・」
(私が常篤様に化けて、代わりに腹をきりましょう。)
と言いかけて、佐助は口をつぐんだ。常篤が最もそのようなことを嫌う人柄であったことを今は誰よりも知っていたからである。
それからしばらくして、常篤は諏訪派の家臣に謁見を願い出て、その夜自ら切腹することを告げた。いまや一刻の猶予もならないのである。それは誰よりも常篤自身が理解していたのである。