さて、常篤が城に自ら到着し、『上』と書かれた真田幸民に向けた書を携えて現れたときには、城の門番もさすがに面くらった。
「それがし、故あって家老諏訪頼重殿を斬りし者。武田常篤と申すものである。切腹の沙汰をいただきに参った。よって、それがしの屋敷に追手を向けておられるなら一切無用。常篤自ら出向いて参った。」
まさか、諏訪を斬った本人が自ら城に出向いてくるとは・・・。
あわてて、城を警護する侍が常篤のまわりに集まってきて、これを取り押さえようとした。
「縄などいらぬ。」
常篤の身体から発する迫力に門番達が二、三歩思わず退いた。
「私はどちらで沙汰を待てばよいのですか?」
常篤は静かに門番の一人に声をかけ、案内に従った。

城門の周りには、すでに多くの民衆が寄せ掛け、常篤の一挙一同を見守っていた。
これは、もはや常篤への処遇が、民衆の藩主への感情抜きには判断できない状況となってきたことを意味していた。