さて…
時はしばし遡(さかの)る。
紗枝を屋敷まで案内したときに、佐助はその状況から瞬時に常篤が城へ向かったと直感した。
よって、紗枝を屋敷で降ろしたあと、すぐに一人紗枝のもとを離れ、驚くべき脚力と地の利を生かして瞬く間に常篤のもとにたどり着いていたのである。常篤はちょうど屋敷を出て、城へ向かう道中、城下を流れる河原を歩いていたときのことであった。
「常篤様…」
佐助の呼ぶ声が聞こえる。
「佐助か?」
「はい。紗枝殿を無事福田屋より助けだしてございます。」
「…そうか。して紗枝殿は郷里へ向かわれたのか?」
「いえ…それが常篤様にどうしてももう一目会いたい、と今は常篤様の屋敷に。」
「なに?もし城より追手が迫ったら…」
「それは我が部下をすべてつけておりますゆえ、大丈夫にございます。」
「そうか…かたじけない。」
常篤は頭を下げた。