さて、時を同じくして、福田屋の地下に幽閉されていた紗枝は、佐助の手によって助け出されていた。
「あの・・・常篤様は?」
紗枝が佐助に尋ねる。
そういえば、紗枝が佐助の姿を見るのは初めてである。もはや、事態が一刻の猶予もならぬ、ということであろう。
「常篤様は、今領内にて諏訪を待ち受けております。勝敗は一瞬にてつくでしょう。」
(常篤様に限って、例え敵の数が数十人いようと者の数ではないであろうが・・・しかし、常篤様にもしものことがあっては!)
それでも一抹の不安を感じた佐助は紗枝を引いてきた馬に乗せ、さらにそれを部下に曳かせた。
「紗枝殿、それでは拙者は常篤様の元に急ぐゆえ、失礼いたします。後はこの者が紗枝殿を安全に郷里へお連れしますゆえ・・・」
「佐助様!私はもう生きることを願いはしておりませぬ。いずれ主人の悪事が露見すれば、妻として私は罰されるに違いありません。これ以上生き恥をさらすくらいなら・・・私は武家の娘らしく自害しとうございます!」
きっとこのことは昨夜より覚悟していたのだろう。