そこに『あの子ども』が一人かけよってきた。諏訪の圧政で親兄弟を亡くしたあの子どもである。
「仁左衛門様…ありがとう。」
その目にはうっすらと涙がにじんでいる。
その声にはじかれるように領民たちが歓喜の声を上げる。
「おおっ。諏訪がとうとう斬られたぞ!」
「まさに天誅じゃ!」
「常篤さま!」
「ありがとうございます!」
常篤をたたえ、賞賛する拍手と歓声の中、全く表情を変えなかった常篤は、『あの子ども』に向けてのみニコリと笑顔を見せ、そして、周囲を取り囲む農民に向けて、一礼をした。

「常篤さま・・・このことは・・・必ず私どもがお殿様にお知らせいたします。決して常篤さまに咎の及ばぬよう、全員の血判状を持って、この一部始終をおしらせいたします!」
去ろうとする常篤を皆が追いかけ、頭を何度も下げながら口々に言った。