そのように指示を出すとあっけにとられている母をもうながし、全員がはじかれたように動きだすと、自らは部屋に戻り、神棚の奥にある隠し扉を開いた。
(ない…)
諏訪との密約や献金にかかわる書や諏訪から預った血判もことごとくなくなっている。

(やられた…しかし何奴が?)
色々な展開は予想してはいたがここまで急な展開までは予想しきれなかった次郎の顔にあきらかに狼狽の色がみてとれた。

一方の諏訪の屋敷では、朝から何やら家臣がもめていた。
「いかがしたのじゃ?」
諏訪が聞くと、どうやら屋敷の門で朝一番で烏が群れていただの、空は晴れているのに雨が降っただのと、これは何かの凶兆ではないか、と騒いでいるのだ。
「これだけ民の怨差をかっておる身じゃ。今更凶兆のひとつやふたつ、何を気にすることがあろう。」
家臣たちが止めるのも聞かずに諏訪はいつもどおり城に向かったのである。
(確かにここ数ヶ月…何人かの密偵が帰ってこないのは確かじゃが…)
諏訪は、何度か密偵の者から受けていた警告も思い出した。