「ごめん」
「謝って欲しいわけじゃない」
「分かってる……」
先輩はエンジンをかけると、車を動かしはじめた。
「……どこへ行くんですか?」
「ここにずっと止めてるわけにもいかないから。すこし走ろう」
それから先輩は、無言で車を走らせた。
あたしは、涙でボヤける視界で先輩の横顔を見つめながら、去年の七夕のことを思い出していた。
あの日、先輩と長野まで夜のドライブをしたときも、あたしはこうして、運転する先輩の横顔を見つめていた。
ううん、あの時だけじゃない。
あたしはいつだって、運転する先輩の横顔を見つめていた。
ふいに、気づく。
そうだ、これは運転中に限ったことじゃない。
先輩はいつも前を見つめていて。
あたしはいつも、そんな先輩をただ横で見つめていただけのような気がする。